2013年7月9日火曜日

作品紹介(5)

江上さんが絵を描くときの目線はいつも低い。

前回ご紹介したような作品に認められる、空が画面の大半を占めるスタティックな構図ゆえの安定感も大きく起因しているのでしょうが、なにより江上さんが実際に椅子に座って眺めているだろう風景だったり、場合によれば地面に這いつくばって見ているんじゃなかろうかと思わせるような眺めが描かれています。

「線路敷の夕暮れ」1950年前後 クレパス

この作品の視点も非常に低く設定されています。自分の住むまちにこんな眺めを発見し、スケッチし、それをもとにクレパス画を描いていくとしても、もっと視点を高く設定した構成を採ることもできたはずです。それをあえて、低い視点のままで固定し、画面ほぼ一杯に目の前の柵を描き、画面上にわずかに向こうの眺めを配しています。

いえ、より正確に言うのならば、そもそもこれは目線を低くしないと見えてこない眺めなのです。

このいかにも絵になりそうにない眺めをあえて絵に描き、ロマンティックな雰囲気さえ漂う絵に仕立て上げているところにこそ江上さんの画家としての資質と気概が見て取れるでしょう。

雨上がりなのでしょうか手前の道路はつややかに濡れ、水たまりには夕焼けの光が映えています。柵の向こうは青と紫を基調にした層が重なり、クレパスの塗り方にも変化が見られます。

そして向こう側の洗濯物のなんと美しいかがやき。

洗濯物は江上さんが好むモチーフの一つでもあり、それは江上さんが目線を低くするのと同根のことでしょう。(たけ)