2013年6月12日水曜日

作品紹介(1)

江上茂雄「雪降る」 1960年頃 クレパス 大牟田市本町

場所は大牟田市内、江上さんが住んでいたまちです。どこかの製材所なんでしょうか、材木が敷地からはみ出して横たわっています。

大八車や手押し車が時代を感じさせると同時に、画面にアクセントを与えています。画面の下半分には様々な形が散りばめられていますが、画面中央の小さな三角屋根とその上にある大きな三角屋根が構図にリズムと安定感をもたらし、よく見れば画面の至る所に屋根の傾きに呼応した線と配置が見つかるでしょう。

時間は夜にちがいありません。けれど画面全体がほのかに白く光っているのはどうしてでしょう? 空に満月が輝いているのでしょうか? いやしかし、それにしても...。タイトルを見ると「雪降る」とあります。そう、雪が降っているのです。

この絵のこの上ない魅力は、雪が画面の中で光として感じられると同時に、質感として直接に表現されているところにあります。実際にこの絵を前にした時、江上さんがクレパスでつくり込んだ独特の質感に目が震えると同時に、誰もが胸に秘めている記憶や感情が呼びさまされるはずです。

それは雪景色がもたらす感傷だけではありません。きっと私たちは、この雪景色を手すりの手前から眺めている画家の姿と、その画家が画面に込めた営々たる時間を見るのでしょう。(たけ)