756x554㎝ クレヨン |
茂雄さんは大牟田や荒尾のさまざまな風景を描きましたが、それはなにも風光明媚な絵のモチーフを求めてのことではなく、「自分がいる場所」を絵にするためのことでした。ですので、この社宅の部屋の小さなベランダを描いた絵もまた茂雄さんにとってはれっきとした「風景画」といえるのかもしれません。
鉢植え代わりの四角い木の箱にさまざまな植物が植えられています。手前はきっと食事の足しになるようなものでしょう、奥は日々の暮らしの慰みに。茂雄さんはお花が好きな人でした。幾何学的な絵づくりのおもしろさもさることながら、この小さなベランダにしゃがみこんでいる茂雄さんの姿が目に浮かぶようで、私には愛おしい絵の一枚です。
ベゴニアの花の、ナイフでこすりつけたような赤い絵具がすこし暗い青い影の中で映え、揺れ、画家の眼をダイレクトに実感させます。(たけ)