2013年12月1日日曜日

「ハンズさん」ってなに?(その1)

今回の江上茂雄展(での試み)についてのいろいろなことを機会を見て書いておこうと思います。

その一発目は意外なところで(?)「ハンズさん」について。

福岡ケンビの江上茂雄展はシリーズタイトルがついていました。それが「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」。どんなシリーズなのかは、チラシにこう書きました。

本展は九州のローカルな美術をたのしく深く紹介するシリーズ展「郷土の美術をみる・しる・まなぶ」の5回目にして特別編になります。大人と子どもがときには一緒に、ときには別々に美術と向き合う場と時間をつくり出します。会場ではおもてなしスタッフ「ハンズさん」が来場者を気さくにお出迎えいたします。作品鑑賞のお手伝いをしたり、話し相手になったり、ちょっとしたクイズを出してみたり。ただし展覧会場での過ごし方は皆さん次第。ひとり静かに見るもよし、誰かと話しながら見るもよし、どうぞご自由にお楽しみください。

このいわゆる趣旨文に至るまでには展覧会の数をそれなりに重ね、すこしずつアップデートしてきたわけですが、それだけにどこに視点を置くかによって話は幾重にも広がっていきます。なので今回は「ハンズさん」について絞りましょう。

ハンズさんという仕組みがケンビで生まれたのはかれこれ11年前の2002年、「みる・しる・まなぶ」の前シリーズにあたる「アートにであう夏」の4回目として開催された「クイズ de アート」という、子どもたちを対象にしたいわば体験型の展覧会においてでした。

ハンズとはつまり「手」。作品と鑑賞者の「つなぎ手」として、作品保全のための監視はもとより、子どもたちに寄り添って、子どもたちがより楽しく、より深く鑑賞できるように手を携える役割が期待されました。

命名者は当時ケンビにいらした川浪さん。検索かけたら川浪さんの古い記事が出てきましたので、リンク貼っときます。

http://www.dnp.co.jp/artscape/view/recommend/0209/kawanami/kawanami.html


すでに私自身もケンビで働くようになって3年目に突入した頃のことですが、当時在籍していたのが隣の課でして(しかも知る人ぞ知る「県展」を担当しておりまして)、ですからじつはあまり詳細な経緯は知りません。けれど記憶では、ハンズさんが生まれるにはもうちょっと現実的な事情もあったように思います。つまり、通常の作品監視の仕方では、クイズやら機織りやら記念写真やらの体験で興奮が振り切り、ワイルドになった子どもたちから作品を守ることができない、という事情です。

「さあ、存分に遊びなさい」と言っておきながら「作品には触るな」「会場では暴れるな」と求めるのはそもそも酷な話で、子どもたちだって白けてしまいます。ですから「監視」というネガティブな役割ではなく、川浪さんが書いているように「ファシリテイター」というポジティヴな役割へと切り替えることで、この二律背反の荒波を泳ぎきろうとしたわけです。(ちなみに現在では「監視」ではなく「看視」という言葉が使われることも多くなり、私自身も後者を意識的に使うようにしています)

とはいえ展覧会が始まればもちろんながら想定外のオンパレード。日々メンテや修正に明け暮れたとはこれもまた川浪さんが書くとおり。しかし見た目の手作り感とかほのぼの感とはあいまって、美術館運営からすれば多分に実験的なこの試みはこれまた想定外の好評を受け、なんと次の年には第2弾「ふたたび!クイズ de アート」が開催されることに。(余談ですが私が初めて担当を任された企画展で、反省とか苦い思い出とか若気の至りとか満載)

ただしハンズさんという仕組みはこのように「クイズ de アート」という一つの展覧会からはじまった訳ですが、その種はもちろんその以前からありました。作品と鑑賞者、美術館と市民をつなぐことの大切さを考える教育普及的な意識は「アートにであう夏」というシリーズ名からも読み取れるでしょう。それが底流にあったからこそハンズさんは一過性の仕掛けではなく、現在も続く仕組みへと育っていくのです。

と言えばなんだかかっこよく聞こえますが、実はハンズさんは私たち美術館側が育てたというよりも、ハンズさんたちが自ら育ってくれたようなものなのです。

そのあたりはまた次回に。(たけ)