2014年5月7日水曜日

今日の茂雄さん(その3)

クレパス、クレヨン、水彩絵具 565×752cm

茂雄さんの絵の基調色といえば緑と青でしょうか。風景を描くのでこの二色がベースになるのは自然なことのように思えますが、なかでも青は空の色、水の色、影の色、哀愁の色と茂雄さんらしい広がりを持っています。この絵の青も影を表しながら、爽やかさとわずかのもの悲しさを感じさせる印象的な色になっています。

この低い土手は茂雄さんが一時期好んだ場所らしく、しばしば描かれています。土手の土、その土とは質感の異なる地面の土、土手と地面の境界をなす石、そして木々、向こうに抜ける緑。それらが混ざり合うさまが茂雄さんの眼をとめ、手を動かしたのでしょうか。土手を塗るクレヨンをナイフでこすりつけたり、木の幹や葉の下地に白い水彩絵具を盛り上げて質感を強調したりと、物質感をとらえようとする茂雄さんなりの実験がさまざまに見て取れます。

さらにこの絵に関しては、それらの物質を覆い、より複雑で微妙な表情をもたらしている光と影に茂雄さんの絵心が動かされているようです。右下から大きく円を描くようにして右上へとうねっていく全体の構図と、その構図に回収されることなく(しかし調和をなすように重なりながら)眼の中でカクカクと自在に動き出すそれぞれの色彩。茂雄さん自身が強調する「写実」を越えて、どこかセザンヌにも通じるような快活さをこの絵は放っています。(たけ)