2013年7月19日金曜日

作品紹介(7)

今回ご紹介する作品は、江上茂雄さんの作品の中でも、
少し異色と言えるかもしれません。

それは、荒尾市に転居した昭和48(1973)年から手がけている
“私の筑後路” と題した木版画の一点なのですが、
シリーズ名にあるように、自分を育ててくれた筑後の風景を題材とする
一連の作品の中にあって、これは草花が描かれています。






 









作品名は「緑照青影」。

描かれる草花は、“私の鎮魂花譜” で繊細に描かれてきた
一輪、一株に、共通するものもあるのでしょうか。

現在まで、170点以上が制作されているこのシリーズの中で、
このように黒白の対比だけで表現された作品は、ほとんどありません。

墨だけを使った作品であっても、その多くは、中間となる灰色の諧調を加えることで
さまざまな調子を作り出しているのです。


この作品が制作されたのは、昭和58(1983)年。
この年、江上さんはお母様を亡くし、近しい方々への香典返しとして
この作品を彫ったそうです。

少年時代に父親を亡くした江上さんにとって、
以来、姉、妹と自分を育ててくれ、
絵のこともずっと見守ってくれていた母親は
絶対的な存在だったといいます。


黒と白によるシルエットで、細やかに彫り、刷られた草花。
それは、家族の思い出のひとつひとつを確かめ、
刻んでいく工程だったのかもしれません。
(とく)